視覚障害者誘導用道路横断帯(エスコートゾーン)の“ひみつ”

 点字ブロックは視覚障害者が単独でいろいろな場所へ安全に行き来することを支援する目的で設置されていることはよく知られています。近年、バリアフリーの考え方が推進され、歩道はもとより、駅構内、建物の中、プールなどいろいろな場所で目にするようになりました。テレビでも、歩道に敷かれている点字ブロックの上に自転車など置かないようにと訴えています。この点字ブロックの突起には移動方向を示す線状タイプと、警告(停止)や注意喚起を示す点状タイプの2種類があることも今では多くの人が見て知っていることと思います。
 さて、一般市街地を移動する際に道路横断は避けては通れませんが、これは視覚障害者にとっては極めて困難の大きいタスクとなります。なぜなら、道路横断に必要なあらゆる情報を、視覚に比べて制限の多い視覚以外の感覚から得、限られた時間範囲内に正確に安全に渡り終えなければならないからです。
 さて、ここで問題です・・・。
そんな大変な横断歩道でも「歩道」と名が付いている以上、点字ブロック(触覚表示)が敷かれていてもよさそうですが、実際そのようなものはあるのでしょうか?

 答えは「イエス」です。横断歩道の真ん中に敷かれていて(図1)、道路横断帯(通称:エスコートゾーン)と呼ばれており、視覚障害者の道路横断を支援する設備として注目されています。この原型は1993年に私達の研究グループの一人が日本で初めて開発したものです1)。岡山市では岡山駅前の電停、国富の交差点、大供の福祉会館前などの横断歩道上に敷設されています。私達障害行動系のグループでは、警察庁と共同でこの道路横断帯用の触覚表示の開発を行ってきました。その成果が実り、開発した横断帯の標準化が本年度に予定されています2)。 ・・・といっても、なじみの薄いヒトも多いはず。そこで、このコーナーでは「道路横断帯の“ひみつ”」に迫ってみます。
        
図1 横断歩道に敷かれた道路横断帯(岡山市内)
図1 横断歩道に敷かれた道路横断帯(岡山市内) 
一般歩行者やロービジョンの方が気づきやすいように道路横断帯の両側に幅5-10cmのペイントの無い部分を設けていること、及び点字ブロックの誘導路と道路横断帯が直線的に結ばれていることに注意してください。


<エスコートゾーンの形> そもそも道路横断帯とはどんな形をしているのでしょうか?その形から見ていきましょう。図2に道路横断帯に使われる突起の形を示します。突起の形は底面直径23mm、上面直径6mmの円錐台です。点字ブロックに使われる突起より傾斜部が緩やかになっている点が注目されます。この突起を進行方向と直角方向に2.5cm(中心間距離)間隔に並べて一本のラインを作ります(図3)。一本のラインの長さは30〜60cm位です。このラインを7.5cm間隔に対岸まで引いたものが道路横断帯です。 


図2 道路横断帯の突起(左)と点字ブロックの点状突起(右、JIS規格品)
図2 道路横断帯の突起(左)と点字ブロックの点状突起(右、JIS規格品)
   上が側面図で下が上面図。


      図3 道路横断帯を上からみた模式図図3 道路横断帯を上からみた模式図

<その使い方は?> では、どうやってこれを利用するのでしょうか?視覚障害者の移動には「オリエンテーション&モビリティー」といって、1)ある空間内における自分のいる位置と自分が向いている方向を知ること、2)どちらの方向へ進めばよいのかを知ること、3)その方向へ正確に歩行する技術を持っていること、が欠かせません。横断帯利用者は、横断帯の上を歩いたり、あるいは白杖で突起を確認することで、自分の位置や進む方向に関する手がかりを得ることができるのです。

 では、そこにはどんな”ひみつ”があるのでしょうか?
<横断帯に隠された秘密・・・> 横断帯は図3にあるように、点状突起の配列方法が横線状になるよう並べてあり、歩道上の点字ブロックの点状突起の配置とは明らかに違います。また突起の形も歩道上に敷かれているものとは違います。なぜ、わざわざ一般的に敷かれているものと違えてあるのでしょうか?その隠された秘密に迫ります・・・。

 まず、横線状に並べてある理由は何でしょう?
<ライン状配列の”ひみつ”・・・> 理由は、先に述べた「オリエンテーション&モビリティー」に関係しているのです。視覚障害者が進行方法を決定する方法は2つあります。その一つにスクエアリングオフという方法があります。分りやすく言えば、ある面や線を基準にそれと直角方向に歩き出す方法です。もうわかりますね。ライン状に敷くことで進行方向の基準線を作り出しているのです。・・・なるほど、では縦線ではいけないのでしょうか?歩道は縦線ですね。そうです。横線にすることで、現在の位置が歩道上ではないことも示しているのです。

 では、ラインが必要なのになぜ線状の突起を使わず、点をつなげたラインにするのでしょう? 
<ラインにラインを使わないわけ???・・・・> 横断歩道を利用するのは視覚障害者ばかりではありません。障害の有無や年齢に関係なく全ての人々が利用します。さてそこで、線状突起が敷いてあるとして、車いす利用者がその線を何本も横切りながら対岸まで渡るとします。これでは振動がひどくてとても渡れません。これは極端な例ですが、ずっと横断帯上を通過することは無いにしても、他の通行者もいることですし、混雑している場合などでは、意識して避けない限りその上を通らざるを得ないということも起きるでしょう。しかし、これを点状突起の並びとして作っておけば、振動の主な源である車いすのキャスターは突起の間を抜けるなどして振動の負担をずっと軽減することができるのです。

 次に、歩道上に使われている点状突起と形状を変えてあるのはなぜでしょう?そのまま使ってもよさそうですが・・・・?
 <点状突起の形の”ひみつ”・・・・> 形のどんな点がこれまでのものと異なっているのかもう一度図2を見てみましょう。特徴は2つあります。第一は「傾斜が緩くなっている」点です。角度は点字ブロックの点状突起が45度なのに対して道路横断帯の突起は32.5度です。第2は「三角形に近く先がとがっている」点です。上面直径は歩道のものの半分になっています。
まず、第一の違いの傾斜ですが、これを緩くすることで、車いす利用者が突起上を通過する際のキャスターの衝突の力を小さくし、また突起の頂上まで乗り上げる機会を減らすことができます。それにより、通過時の振動をかなり減らすことができるのです。この振動の減弱については、機械的測定によって確かめられています(2004年度卒業論文、武用、2005年度リハ工学カンファレンス発表予定)。次に、第二の違いの先端のとがりについてです。それには横断歩道を取り巻く環境を考えねばなりません。歩道と決定的に違う環境の様相は何でしょうか?それは、車輌が頻繁に通過するということです。重量物が突起の上を頻繁に通過することで突起の磨耗が早まり、点字ブロックとしての機能が早く失われてしまいます。ですから、もともと上面の径が広いものですと、磨耗により早く平たい突起となってしまい、踏んでも突起の検知は難しくなってしまいます。そこで、三角形に近い形にすることで磨耗した状態でもとがった状態を保たせることができ、突起の足底への点圧効果として突起検知がしやすくなります。こうして道路横断帯をなるべく長持ちさせることができるのです。さらに、高齢者などの躓きの問題(歩きやすさ)にも効果が見出されています。(2004年度卒業論文、立石、2005年度リハ工学カンファレンス発表予定)。


おわりに −横断帯とユニバーサルデザイン−
 以上、横断帯の秘密をいくつか探ってみました。そこにはいろんな秘密が(というより工夫が)込められている事をお分かりいただけたと思います。そして、その根底には共通した考えがあることに気づきます。点字ブロックは、視覚障害者には大いに役立つプラス面を持っていますが、その反面、突起物であるが故にそれ以外の人々にとっては逆に移動の妨げとなるマイナス面も持っています。ですから、こうした矛盾する性質をもつ支援設備を皆の協力を得ながら設けていくには、プラス面を保ちつつマイナス面をできるだけ減らす、つまり「ユニバーサルデザイン」的考えが求められるのです。
 道路横断帯の“ひみつ”を考えてきましたが、道路横断するときに、これらの“ひみつ”を思い出していただけたら幸いです。また、私達の研究グループがユニバーサルデザインの思想を込めながら研究開発してきたものが、広く人々の理解を得ながら障害者の方たちの支援に役立つことを願っています。

参考文献

(1) 田内雅規,村上琢磨,清水学,大倉元宏(1993). 視覚障害者の道路横断を支援する新しい試み、第19回感覚代行シンポジウム論文集:143−148.
(2) バリアフリー社会における横断歩行者の安全確保に関する調査研究報告書、警察庁、 エスコートゾーン作業部会 (2004). 
(3)  中村孝文、武用隆宏、大倉元宏、田内雅規(2005) 視覚障害者用道路横断帯の突起形状と車いす通過時の振動発生の関連について、第20回リハ工学カンファレンス講演集
(4)  田内雅規、立石涼子、大倉元宏、中村孝文(2005)視覚障害者の道路横断を支援する道路横断帯の突起形状と歩きやすさの関係、第20回リハ工学カンファレンス講演集




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